「湘南style在宅医療」講演会

昨日、鎌倉商工会議所で第5回「湘南style在宅医療」講演会が開催されました。

 

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この講演会は、湘南おおふなクリニックの長谷川院長の企画で、在宅医療に関わる様々な職種の方や一般の方に向け年に2回開催されています。

 

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今回は私とともに、言語聴覚士 (ST) の遠藤さん、カマタ歯科診療所の鎌田先生、ドクターゴン鎌倉診療所の久島先生、ホームホスピスを運営されている市原さんが、講演を担当しました。

 

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私は「在宅療養における歯科医師・歯科衛生士の役割」のテーマで、当院の行なっている訪問歯科診療・口腔ケア・口腔リハビリテーションについてお話しさせて頂きました。

 

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口は生命の源であり、口の衰え(オーラルフレイル)が全身の衰えに直結する事。

口腔の衛生状態の悪化が、誤嚥性肺炎を始めとする死亡原因ともなる疾病を招くという恐ろしさ、などを実際の口腔写真などを用いて説明させて頂きました。

介護の度合いを重くしないため、体調の悪化を未然に防ぐためには、早い段階で歯科医師・歯科衛生士にお声かけ頂く事が重要になります。

 

在宅療養ではオーラルフレイルの改善+呼吸力と姿勢維持に関る筋力のリハが日常生活動作(ADL)の維持・改善に必要であることから、歯科医師は歯科治療だけでなく全身の衰えに配慮しなければならない事を述べさせていただきました。

 

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在宅医療が診療所における外来診療と異なる点は、我々の考える最善の医療が、その方にとっての最良の選択になるとは限らないという事です。

診断や治療技術は医学的根拠(Evidence based Medicine)に基づいて行わなければなりませんが、治療方針を考える際には、患者さんの状態、ご本人とご家族の生活環境やご希望に寄り添う診療やケア(Narrative based Medicine)を基本にしています。

 

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今回の講演会には、医師・歯科医師・看護師・歯科衛生士・ケアマネジャー・介護福祉士・管理栄養士・言語聴覚士理学療法士・薬剤師 などの方が参加しています。

そうした医療・介護のプロが、ケアマネジャーさんを中心に、在宅療養を支えています。

多職種が連携する事で、各々の気付きやご本人やご家族の声が、ダイレクトに支援に繋がります。

 

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皆さま大変熱心に耳を傾けて下さいました。

 

 

他の演者の方からも、大変ためになるお話しを伺う事が出来ました。

 

「ホームホスピス宮崎」を運営されていて、全国ホームホスピス協会理事長の市原美穂さんのお話しは、胸を打つものがありました。

市原さんは医師のご主人が医院を開かれている宮崎で民家を借り上げ、施設でもない、自宅でもないもう一つの家として、在宅ホスピス機能を持たせたケアハウスを複数運営されています。

 

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人が亡くなるという事は、今まで培ってきた人生・生活の延長であるべきだという考えの元、その方らしい尊厳ある最期を迎えてもらえるようサポートされています。

 

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認知症を患われ、施設で点滴と胃ろうの処置をされていた方のエピソードが印象的でした。

ホームホスピスに移られて口からのお食事を再開し、家庭的な環境での日々に穏やかな表情を取り戻されました。

一度は意思の疎通すら諦めていたお母様の変わりように、喜びと感謝あふれる息子さんの声が紹介されました。

 

在宅療養のあり方は、介護されるご本人のみならず、ご家族やサポートした方にとっても、今後の人生に大きな影響を与えるものであると感じました。

 

 講演会の後に行われたシンポジウムのテーマは「最期過ごしたい“家・居場所”はどのような場所か?」というものでした。

事前に参加者から募ったアンケートでも、やはり住み慣れた自宅で最期を迎えたいとの希望が大半であったそうです。

しかし、家族に迷惑をかけるのではとの気持ちから、病院や施設、ホスピスを選ぶ方も多くいたようです。

 

私事ですが、昨年身内が訪問診療や訪問看護にサポートして頂きながら自宅で旅立ちました。

長年暮らした家で、家族の話し声が聞こえ、庭からの風が入る部屋で、愛犬や愛猫の温もりを感じながら最期の日々を過ごせたのは、本人にとっても家族にとっても幸せな事であったと思います。

 

今後、ホームホスピスのような場所が、各地に増えて行くことを願います。

 

シンポジウムの中で、座長の長谷川先生から私に「どのような方に在宅歯科医療を担ってもらいたいか」というご質問がありました。

 

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私は訪問診療を行う際には、その方が今まで生きてきた歴史・ストーリーを理解するように努め、その方の価値観や誇り、家族との関係、そして介護されるご家族の思いまでも考慮するよう心掛けています。

患者さんの現状の訴えを的確に解消してあげるようにすることはもちろんのことですが、在宅歯科診療は、そうした事にも配慮出来る歯科医師・歯科衛生士さんに担って欲しいと思います。

僭越ながら、ご質問にはそのように答えさせていただきました。

 

 

講演終了後、数名の参加者の方から個別に質問をいただきました。

施設も含め在宅療養されている方々の生活・健康のために、口腔ケア・歯科治療・摂食嚥下リハ・栄養等々、歯科医療担当者が考えてねばならない事は多岐にわたり、皆さんそれぞれ試行錯誤していらっしゃいます。

今回の講演で紹介させていただいた当院の取り組みが、少しでも参考になったら幸いです。

 

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私も、参加した当院のスタッフ達も、今回の講演会で多くの刺激を受けました。

今後の訪問歯科診療・口腔ケアに生かして参りたいと思います。

 

 

鎌倉市山崎のまちの歯医者さん「医療法人 樹会 いがらし歯科医院」